未曾有の被害をもたらした東日本大震災からちょうど一年。復興を支援するために自分に何ができるかを問い返すなかで、アートの関わる人々の中に「アートにできることは何か?」という議論が沸き起こった一年でもありました。皇室の方が被災地を訪問し、避難生活を送る人々に温かな言葉をかけたり、ミュージシャンが歌や音楽で人々を元気づけたりといった場面がメディアに流れるたびに、アートにしか成し得ない支援が見つからず、無力感を覚えないではいられなかったというアーティストやアート関係者も少なくなかったのではないでしょうか。
残念ながら、アートには歌や音楽のような即効性はありません。また、人々の気持ちを癒したり、元気づけたりするようなものばかりではありません。むしろ、津波や原発の恐怖を思い出させたり、大切な人や物を失った喪失感をよみがえらせたりと、逆効果を及ぼすような作品の方が多いかもしれません。
でも、それこそがアートの力ではないかと思うのです。震災の恐怖や喪失感を乗り越えるには、歌や音楽でひと時悲しみを忘れ、気持ちをリセットすることも大切ですが、アートをとおして震災の記憶と向き合い、悲しみや苦しみを感じたり、時には怒りに震えたりする経験が、私たちが自然の一部として生きていることを再認識させ、生きる力につながっていくのではないでしょうか。
来年の夏から秋に開催が予定されている「あいちトリエンナーレ2013」のテーマは「揺れる大地―われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」。芸術監督の五十嵐太郎さんはこのテーマについて「日本が大きな試練を迎え、転換を迫られるなかで、このトリエンナーレは(中略)先端的なアートの動向を紹介する第一回の長所を継承しつつも、荒波を越えていくための新機軸や時代性を織り込んでいきます」「当たり前だと思っていた根拠を失い、既成の枠組が変動するとき、自らが踏みしめる大地=アイデンティティがどうなっているかを確認する必要があります」と語っています。「楽しい」「おもしろい」だけではないアートの力を実感させてくれる機会となることを期待したいと思います。
※あいちトリエンナーレ2013の記者発表の模様がUstreamで生放送されます
あいちトリエンナーレ2013記者発表
2012年3月29日(木)16:00~17:00
http://www.ustream.tv/channel/aichitriennale-ch1