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2009年12月15日火曜日

回想法アートで高齢者を元気に

美しい風景が描かれた絵画や温かな色調の造形に「心が癒される」という人は少なくないが、癒しにとどまらず、認知症の予防に効果があるとされている回想法にアートを取り入れた取り組みが、近年行われている。


回想法とは、おもに高齢者を対象に、その人の人生や思い出を共感的な態度で聞くことを基本姿勢とする心理療法。老年期にこれまでの人生を振り返り、自己の人生を再評価することにより、自尊心を向上させ、 高齢期特有の抑うつ状態を緩和するといわれている。


そんな回想法に注目した展覧会が、12月19日(土)まで豊川市桜ヶ丘ミュージアムで開催されている。開館15周年記念特別展「境界なきアート展~響きあうココロへ~」では、豊川養護学校卒業生の辻勇二さんの緻密なペン画をはじめとするこの地域のアウトサイダーアートの紹介に加え、杉山健司さんなど東海エリアで活動するアーティストや名古屋芸術大学美術学部アートクリエイターコースの学生が、身近な高齢者や老人施設で生活されている方々から取材し制作した作品が展示されている。会場のロビーでは、作家や学生が入所者から話を聞いている様子が映像で映し出されており、初対面にもかかわらず自らの人生や昔の生活について熱心に語る入所者の姿が印象的だった。


また、北名古屋市にある国登録有形文化財の旧加藤邸で11月に行われた『記憶の庭で遊ぶ』も、回想法アートをテーマにした展覧会。名古屋芸術大学の学生と卒業生による、昔の生活や祖父母の記憶をテーマにした作品や高齢者の「生活の知恵」を作品化したものが展示された。旧加藤邸には回想法センターが設置されており、昔の道具や玩具を使ったさまざまな取り組みがされている。


アートは私たちの既成概念やものの見方を変えたり、作品を媒介としたコミュニケーションにより、私たちに生きる活力を与えてくれる。しかし一般的には、衣食住に直接関係がない贅沢なものという見方がされがちだ。そんな状況の中、回想法アートで高齢者が元気になることによって、アートの有用性を社会に発信していけるのではないだろうか。


写真:「境界なきアート展~響きあうココロへ~」会場風景

2009年9月15日火曜日

プレイベントが好評! あいちトリエンナーレ


愛知県美術館と名古屋市美術館で開催中(愛知県美術館~10月25日、名古屋市美術館~10月18日)の、あいちトリエンナーレ2010プレイベント「放課後のはらっぱ 櫃田伸也とその教え子たち」展の関連イベント「放課後のはらっぱ大座談会」が8月28日に開催され、定員150名を大幅に超える約250名が会場に詰めかけ、盛り上がりを見せた。

現在は名古屋造形大学客員教授を務める櫃田さんは、1975年から26年間、愛知県立芸術大学で勤務し、かつての教え子からは奈良美智さんをはじめ多くのアーティストが輩出している。

座談会には櫃田さんら出品作家19名が参加。櫃田さんと設楽知昭さんのトークを皮切りに、出品作家が世代別に3グループに分かれ、在学当時のエピソードを語った。なかでも、約20年前の長久手周辺は交通の便が悪く、まだ携帯電話も普及していなかった当時はなかなか情報が入ってこないため、仲間の下宿に集まっては遅くまでアートの話をしていたという、奈良美智さんや杉戸洋さんら世代のエピソードは印象に残った。また、佐藤克久さんを中心に安藤正子さん、加藤美佳さんらで「バッタどうふ」というグループを結成し、絵画の枠にとらわれない実験的な作品を制作していたという話も興味深かった。

作家や作品の選定、展示に奈良さん、杉戸さん、森北さんの3名が深く関わったというこの展覧会。櫃田さんの作品と教え子の作品が並べて展示されたり、櫃田さんのアトリエが再現されていたり、奈良さんらの学生時代の作品が展示されていたりと、櫃田さんと教え子が作品をとおしてキャッチボールをしているかのような展覧会に仕上がっている。「はらっぱ一日カフェ」、ワークショップ「放課後のはらっぱの放課後」、「幻灯会」など関連イベントも目白押しだ。

あいちトリエンナーレのプレイベントは、パフォーマンスを中心とした「うしろの正面―アーティストたちの誠実な遊戯」(愛知芸術文化センター各所、~9月23日)に続き、名古屋市中区錦の長者町繊維街で展開される「長者町プロジェクト2009」が10月10日~11月15日に開催。「後ろの正面―アーティストたちの誠実な遊戯」には松岡徹さん、「長者町プロジェクト2009」には青田真也さん、石田達郎さん、川見俊さん、斉と公平太さん、山本高之さんと、愛知ゆかりの若手作家が参加している。

8月21日の記者発表で、小金沢健人さん、シプリアン・ガイヤールさん、ハンス・オプ・デ・ビークさん、宮永愛子さん、志賀理江子さん、フィロス・マフムードさん、梅田宏明さん、トーチカ、KOSUGE1-16、淺井裕介さん、斉と公平太さんの12組の参加アーティストが新たに発表されたあいちトリエンナーレ。若手作家のトリエンナーレへの参加の機会提供を目的に、愛知芸術文化センターアートスペースと長者町エリアで開催される企画コンペによる公募展の募集も始まった(募集期間は、愛知芸術文化センター~11月30日、長者町2010年1月~2月予定)。開幕まで1年を切ったトリエンナーレの動向にますます注目したい。

※あいちトリエンナーレ公式ウェブサイト→http://aichitriennale.jp/index.php

2009年6月15日月曜日

あいちトリエンナーレ2010最新情報

2010年8月21日(土)~10月31日(日)に、愛知芸術文化センターをメイン会場に「都市の祝祭」をテーマに行われる国際芸術祭、あいちトリエンナーレ2010。参加作家7名、公演団体1団体がすでに決定していたが、5月29日に新たな参加作家とオペラ指揮者が記者発表された。今回追加発表されたのは、蔡國強、三沢厚彦+豊嶋秀樹、ケリス・ウィン・エヴァンス、トム・フリードマン、ジェラティンの5組だ。

火薬を用いた作品制作で知られ、昨年の北京五輪開会式ではダイナミックな花火の演出を手がけた蔡は、あいちトリエンナーレ2010では巨大な和紙を使用した「花火絵画」を発表する予定。また、プレイベントとして開催された「三沢厚彦の世界」(2009年3月24日~5月24日、愛知芸術文化センター、愛知県美術館)で展示された、ほぼ等身大の動物の木彫作品が記憶に新しい見沢は、生活デザインを提案するgrafの豊嶋とのユニットで参加する。そのほか、光と文字、音を用いた作品を制作するエヴァンス、トイレットペーパーやつまようじなどありふれた日用品から彫刻作品をつくり出すフリードマン、話題性のある奇想天外な作品を発表する4人のアーティストからなるジェラティンと、多彩な顔ぶれだ。

プロデュースオペラ「ホフマン物語」については、指揮者にアッシャー・フィッシュマン、演出が金森穣から粟國淳に変更になったことが発表された。

これで12組の作家が決定したが、最終的には70名程度が参加予定であり、今年の秋口には全体の約半分、今年度末にはすべてのアーティストを決定するという。

また、愛知県美術館では6月12日からプレイベントの第2弾として、平田あすか個展「サボテンノユメ 」が開催中だ。(展覧会情報はhttp://artholicfreepaper.blogspot.com/2009/05/blog-post_28.html を参照)。アートホリック2008年12月15日更新分に掲載のインタビュー http://artholicf-interview.blogspot.com/2008/12/blog-post.html をチェックして、ぜひ見に行こう。

2009年3月15日日曜日

街に飛び出すアート


近年、美術館やギャラリーなどの既存の展示スペースから離れ、街や地域を舞台とした展覧会がしばしば行われている。代表的なところでは越後妻有アートトリエンナーレが挙げられるが、東海エリアでも「土から生える」(岐阜県土岐市・瑞浪市・多治見市、2008年9月14日~28日)、「常滑フィールド・トリップ」(愛知県常滑市、2008年10月11日~19日)、「勝川にアートがやってきた。アートラベリング」(愛知県春日井市、2008年12月15日~25日)、「名港ミュージアムタウン」(名古屋市港区、2009年2月14日~3月1日)と少なくない。筆者も企画に関わった「名港ミュージアムタウン」には約30名のアーティストが参加し、500名弱の来場者を動員したが、なぜ展覧会が街に出て行くのだろうか?

まず作家のメリットとして考えられるのは、発表の場を確保できることだろう。これは常滑、勝川、名港の展覧会の参加作家の多くが、学生を含む20代の若手だったことからも頷ける。ただし発表の場といっても、商店や空家、公共のスペースなどへの展示にはさまざまな制約がつきもので、場所との関係性や地域性、歴史などを考慮しなければ作品が成立し得ない点では、いわゆるホワイトキューブでの展示の方がよほど楽だろう。しかし、展示の制約や場所との関係性や地域性、歴史などを考え合わせて制作することにより、それまでの制作・展示環境では考えられなかった作品が生まれる可能性があり、作家自身の制作を広げる機会となりうる点は大きなメリットといえる。また、地域性や歴史を探るためには街の人々とのコミュニケーションが不可欠であり、そこでのコミュニケーションはアートに触れる機会が少ない人々と作品をつなげると共に、作家が社会とつながり今後の活動を展開していくきっかけとなる。

街や地域にとっては、展示エリアにある歴史スポットや店舗を来場者に知ってもらいにぎわいを創出することがメリットであるが、それだけにとどまらない。アートが街並みや店舗に存在することにより、身近すぎてこれまで気づかなかった街や地域の魅力を再発見したり、いつもの街並みが少しだけ違って見えたりといった体験が、平凡な日常に風穴をあけてくれる。

さらに企画サイドからいえば、美術館で開催される現代美術の展覧会やギャラリーに足を運ぶ人は、地域の人口からするとほんのひと握りにすぎないが、作品が街に展示されることで多くの人の目に触れることになり、美術館やギャラリーを訪れたり、アートを買ったりする人々のシェアを広げることにつながる。

2010年開催予定の「あいちトリエンナーレ」でも、メイン会場の愛知芸術文化センターと名古屋市美術館周辺の街並みにアートを点在させることが構想されている。美術館で来場者を待つだけでなく、アートを街に展開させることにより、より多くの人々のトリエンナーレへの巻き込みを図るようだが、これまでの街や地域を舞台とした展覧会での取り組みがトリエンナーレの成功につながることを期待したい。