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2009年3月15日日曜日
街に飛び出すアート
近年、美術館やギャラリーなどの既存の展示スペースから離れ、街や地域を舞台とした展覧会がしばしば行われている。代表的なところでは越後妻有アートトリエンナーレが挙げられるが、東海エリアでも「土から生える」(岐阜県土岐市・瑞浪市・多治見市、2008年9月14日~28日)、「常滑フィールド・トリップ」(愛知県常滑市、2008年10月11日~19日)、「勝川にアートがやってきた。アートラベリング」(愛知県春日井市、2008年12月15日~25日)、「名港ミュージアムタウン」(名古屋市港区、2009年2月14日~3月1日)と少なくない。筆者も企画に関わった「名港ミュージアムタウン」には約30名のアーティストが参加し、500名弱の来場者を動員したが、なぜ展覧会が街に出て行くのだろうか?
まず作家のメリットとして考えられるのは、発表の場を確保できることだろう。これは常滑、勝川、名港の展覧会の参加作家の多くが、学生を含む20代の若手だったことからも頷ける。ただし発表の場といっても、商店や空家、公共のスペースなどへの展示にはさまざまな制約がつきもので、場所との関係性や地域性、歴史などを考慮しなければ作品が成立し得ない点では、いわゆるホワイトキューブでの展示の方がよほど楽だろう。しかし、展示の制約や場所との関係性や地域性、歴史などを考え合わせて制作することにより、それまでの制作・展示環境では考えられなかった作品が生まれる可能性があり、作家自身の制作を広げる機会となりうる点は大きなメリットといえる。また、地域性や歴史を探るためには街の人々とのコミュニケーションが不可欠であり、そこでのコミュニケーションはアートに触れる機会が少ない人々と作品をつなげると共に、作家が社会とつながり今後の活動を展開していくきっかけとなる。
街や地域にとっては、展示エリアにある歴史スポットや店舗を来場者に知ってもらいにぎわいを創出することがメリットであるが、それだけにとどまらない。アートが街並みや店舗に存在することにより、身近すぎてこれまで気づかなかった街や地域の魅力を再発見したり、いつもの街並みが少しだけ違って見えたりといった体験が、平凡な日常に風穴をあけてくれる。
さらに企画サイドからいえば、美術館で開催される現代美術の展覧会やギャラリーに足を運ぶ人は、地域の人口からするとほんのひと握りにすぎないが、作品が街に展示されることで多くの人の目に触れることになり、美術館やギャラリーを訪れたり、アートを買ったりする人々のシェアを広げることにつながる。
2010年開催予定の「あいちトリエンナーレ」でも、メイン会場の愛知芸術文化センターと名古屋市美術館周辺の街並みにアートを点在させることが構想されている。美術館で来場者を待つだけでなく、アートを街に展開させることにより、より多くの人々のトリエンナーレへの巻き込みを図るようだが、これまでの街や地域を舞台とした展覧会での取り組みがトリエンナーレの成功につながることを期待したい。