美しい風景が描かれた絵画や温かな色調の造形に「心が癒される」という人は少なくないが、癒しにとどまらず、認知症の予防に効果があるとされている回想法にアートを取り入れた取り組みが、近年行われている。
回想法とは、おもに高齢者を対象に、その人の人生や思い出を共感的な態度で聞くことを基本姿勢とする心理療法。老年期にこれまでの人生を振り返り、自己の人生を再評価することにより、自尊心を向上させ、 高齢期特有の抑うつ状態を緩和するといわれている。
そんな回想法に注目した展覧会が、12月19日(土)まで豊川市桜ヶ丘ミュージアムで開催されている。開館15周年記念特別展「境界なきアート展~響きあうココロへ~」では、豊川養護学校卒業生の辻勇二さんの緻密なペン画をはじめとするこの地域のアウトサイダーアートの紹介に加え、杉山健司さんなど東海エリアで活動するアーティストや名古屋芸術大学美術学部アートクリエイターコースの学生が、身近な高齢者や老人施設で生活されている方々から取材し制作した作品が展示されている。会場のロビーでは、作家や学生が入所者から話を聞いている様子が映像で映し出されており、初対面にもかかわらず自らの人生や昔の生活について熱心に語る入所者の姿が印象的だった。
また、北名古屋市にある国登録有形文化財の旧加藤邸で11月に行われた『記憶の庭で遊ぶ』も、回想法アートをテーマにした展覧会。名古屋芸術大学の学生と卒業生による、昔の生活や祖父母の記憶をテーマにした作品や高齢者の「生活の知恵」を作品化したものが展示された。旧加藤邸には回想法センターが設置されており、昔の道具や玩具を使ったさまざまな取り組みがされている。
アートは私たちの既成概念やものの見方を変えたり、作品を媒介としたコミュニケーションにより、私たちに生きる活力を与えてくれる。しかし一般的には、衣食住に直接関係がない贅沢なものという見方がされがちだ。そんな状況の中、回想法アートで高齢者が元気になることによって、アートの有用性を社会に発信していけるのではないだろうか。
写真:「境界なきアート展~響きあうココロへ~」会場風景